連載「DJ嶋田のぶんぶんのポップス50音順」第1回 <あ>
連載「DJ嶋田のぶんぶんのポップス50音順」第1回 <あ>

連載「DJ嶋田のぶんぶんのポップス50音順」第1回 <あ>

地方都市和歌山を拠点に活動する私的シティポップDJ・嶋田のぶんぶん。
彼が愛してやまない国産ポップスを50音順に紹介する連載エッセイ。
NYやイビザにいるDJの名前を誇らしげに並べ立てられる奴と
自国の音楽を哀愁と羞恥とリスペクトをもって語れる奴、
どっちが愛せるかっていったら、わかるよね?
つまりそういうお話。
  • 文/DJ嶋田のぶんぶん
  • 編集・題字/山若将也

はじめまして、ファスト風土に彩られた県道の先には
イオンモールがそびえ立つ典型的な地方都市、
和歌山市在住の私、DJ嶋田のぶんぶんでございます。

ふた月ほど前、かねてより親交のある
「MOUTAKUSANDA!!!」の編集部より、

「この度、かれこれこういうウェブマガジンを
始めることになったので、君もひとつ、音楽にまつわる
コラムを書いてくれたまえ、内容はお任せだよ☆」
という依頼をいだだき、合点、お安いご用で、
しめしめ、苦節28年、大正から昭和にかけての流行歌などという
“蹴ったいな”音楽を、これまた私流に「シティポップ」などという
“蹴ったいな”呼び名をつけては、細々とレコードを聴衆の前で

流して喜ぶという活動が実を結び、
ついには地方都市から東京進出、
この連載が反響を呼べば、ゆくゆくは
赤文字系女性雑誌のコラム欄をも視野に、
いそいそと原稿をしたため提出したところ、意外や意外、
担当編集者となった若様より返ってきたリアクションは、
やれ「テーマが曖昧である、書き直し!」、
やれ「連載の方向性が見えない、書き直し!」、
やれ「内容がありきたりである、書き直し!」、
続く「最初の原稿が一番ましだった」⇒ふりだしに戻る等々の
駄目だしのツイスト&シャウトに、話しが違うじゃないか!
わしは褒められて伸びるタイプなの!
思わず「もうたくさんだ!」と叫びたい衝動を
ぐっとこらえ振り返ってみれば、確かに、これまで提出した原稿は
若様の言うとおり、曖昧なテーマで方向性もないまま、
ありきたりな内容を書き散らかした代物で、
よくよく思えばこれもひとえに、
最終的には「女の子にもてたい!」という
邪(よこしま)な企みが横やりを入れ、
無い袖のお洒落を振りまいてみたり、軽薄な知識を
散りばめてみたりの結果ではないか。

思えば学生時代、神戸でバンドをはじめたのも、
DJなどという活動を続けているのも、
すべては「モテたい」その一心、その欲望の因果が
現在の自分の境遇に表れているのだ。

不純な動機がすべての間違いの始まり、ここは一つ、
邪な気持ちを捨て去り、世のため人のため、
目標はNHK教育テレビ、子どもにも楽しめる企画を練るのだと、
そんな紆余曲折を経て辿りついたタイトルが、
『DJ嶋田のぶんぶんの、ポップス50音順』。
毎回50音順に一字ずつ、「あ」からはじまり「ん」で終わるまで、
その文字から始まるタイトルの音楽を紹介する全50回。
音楽に楽しむうちに、気付けば日本語50音まで勉強できるという、
「石川遼も聴いているイージー・リスニング」並の教養コンテンツでございます。

とにかく、迫りくる次なる駄目出しに、そして、
「ん」から始まる曲なんてあるのあるの?等という疑問に追いつかれる前に
勢いだけではじめる最初の50音、「あ」からはじまる一曲目は、
ご存じ小林旭で「あきらでボサ・ノバ」!!!

小林旭「アキラでボサ・ノバ」

※7分58秒あたりからはじまります。

ボサ・ノバ。
より“っぽく”言えばボッサ・ノーヴァ(BOSSA NOVA)とは、
1950年代の終わりのブラジルで、都市に暮らす
中産階級のミュージシャンや学生、その中でも特に
アントニオ・カルロス・ジョビン、ジョアン・ジルベルト等を
中心に生み出された、これまでのサンバをさらに洗練させた、
新しい(=NOVA)潮流(≒BOSSA)の音楽、
何とも新連載の第一曲目にふさわしいジャンルなのですが、
小林旭のボサ・ノバ、果たしてこれはボッサ・ノーヴァなのか?
むしろサンバではないのか? 来日したジルベルトが
ファンサービスとして(多分)演奏してくれるはずもない一曲。

いやいや、ボサ・ノーヴァかどうか、
そんな疑問を抱くことこそが不粋。
ボサ・ノーヴァが誕生して僅か数年後の1963年に発売されたこの曲、
「あきらでボサ・ノバ」で注目すべきは、
とにかく地球の裏側で何だか面白そうな動きがあると聴けば、
とりあえず、その名称だけでも拝借しようという貪欲な好奇心。

思えば大正の終わりから昭和の初期にかけて、
海外から入って来た目新しい音楽は、
その内実如何を問わず全て「ジャズ」と呼ばれた時代から延々と続く、
これぞ正しい市井の音楽の消費スタイル。
そして、ボッサであろうとサンバであろうと、
ダイナマイトの男=マイトガイこと小林旭が歌えば、
その爆風が全ての疑問を吹き飛ばし、
踊る阿呆ぅに見る阿呆ぅ、同じ阿保なら
踊らにゃソング・バット・ノット・フォー・ユーってな感じで、
勢いだけでスタートしたこの連載、次回の50音は「い」!

あばよ!!!