連載「大人のブカツ」vol.01 menos
連載「大人のブカツ」vol.01 menos

連載「大人のブカツ」vol.01 menos

  • photograhy / 木村泰之
  • interview&text / 霜嵜和敏
「仕事と遊びの境界って何だ?」
「純粋に好きなことを仕事にするって可能なのか?」
「もしくは仕事を遊びのように楽しむことはできるのか?」
君もうすうす感づいているように、多分答えはYESだ。
とはいえ始め方もわからないし、踏み出す勇気が出ないまんま
気がつけばそろそろいい大人、って人も多いはず。
じゃあ、実際に自分なりのライフスタイルを見つけて
全力で毎日を遊んでいる大人たちに会ってみよう。
彼らの活動は、お金儲けが目的じゃなくて、
最高に楽しくて、最高に辛くても仲間がいるから乗り越えられて、
最高に気持ちよくて、最高に悔しくて、
うまくいったときはたまにモテたりもして、
きっとブカツみたいなものかもしれない。
ただの趣味だと言い訳して、本気を出さないのはもう終わり。
週末に使う金を稼ぐ為に平日の時間を売るのもそろそろおしまいにしよう。
好きなことをとことん楽しむライフスタイルを
見つけるためインタビュー連載「大人のブカツ」。

「秘密基地はつくれる。ゼロからでも」
ー石井和昭

僕は高円寺に嫉妬している。
正確には高円寺に生きる人々に嫉妬している。
不変的にみえるこの街は創造を続け
やがて新たな文化を芽吹かせる。
クリエイティビティに溢れた感性は街全体を覆い、
またひとり感化された人間が
特異なムーヴメントを巻き起こす。
偶然ではない、その場所は紛れもなく高円寺なのだ。
ハンパな僕にはこの街が、人が、
キラキラ見えて仕方ない。
今回取材させてもらうヘアサロン
「menos」の店長 石井和昭さんも
高円寺らしいといっていいのか、
かなりウィットに富んだ人だという。
美容師でありながらその枠にはまることなく
自由な発想をもって“創造”を続けている。

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高円寺駅ガード下をくぐり南に進む。アパレルショップとラーメン屋に挟まれたビルの2階に上がるとmenosがある。

南口から歩くこと2分、とある雑居ビルの2Fにそこはあった。
店内を覗いてみるとまず目に飛び込んでくるのは
中心にレイアウトされた“モバイルハウス”といわれる小屋。
これは建築家、作家、絵描き、内閣新政府総理大臣など
さまざまな肩書きを持つ坂口恭平氏が提唱する
その名の通り“動く家”だ。

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モバイルハウスには、ファッション、デザイン、
アートにまつわる書籍が並ぶほか、
アクセサリーなども展示販売されている。
ギャラリーというかポップアップショップというか、
いずれにせよ美容室とはなんら関係のないものまでが雑多と並んである。
そして再度店内を見わたしてみた。
俗にいう原宿や表参道にある「売れ線」系の
小ぎれいで無機質な美容室ではなく
どこか温かみがあり“秘密基地”のような空間。
男心をくすぐるそんな空気がサロン全体に漂っていた。

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ホームセンターで購入できる材料(誰もが手に入れられるもの)で作るのが「モバイルハウス」の醍醐味。

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モバイルハウスの裏側には“つくる”にこだわり続けるmenosスタッフ全員が共有する合言葉が。

「形にならなかったアイデアと行動の蓄積が、不意に花開くこともある。
失敗を含め動き出しておくことが、いつか来るチャンスを捕まえる準備になると思うんです」

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「menos」はひとりではじめられたとお伺いしましたが、そもそもどういったいきさつが?

石井 22、23歳のころ、僕はある大手のサロン で働いていました。でもやれノルマだ、やれ利益がどうだとか、数字に縛られながら働く毎日が嫌になって。もちろん今ではその大切さもわかりますが、当時は “理想”と“現実”のギャップにとまどったんだと思います。自分はなんのために働いているのかわからなくなり、結局お店を辞めてしまって。美容師自 体もどうしようか迷ったんですが、友人に髪を切ってほしいと言われたので自宅に招きカットしたりしていました。そこから友人が友人を連れてきたりしだして。お代で食糧やお酒なんかをもらいつつ生活をしてたんです。そのときってほんと楽しくて。体温を感じるというか。あっ、自分はこういう雰囲気の空間をつくりたいんだと気づいて、そこからひとりではじめたのが「menos」なんです。

そのとき明確なビジョンなどはありましたか?

石井 こうなりたいというのはなかったんですけど 「ずっとひとりでやってやる」と思っていました。そもそも「menos」という名前もそう意味を込めてつけたんで。反骨精神とまではいきませんが、流さ れることなく自分のスタイルでやっていこうと。だからほんとユルい感じやっていましたよ。友だちが遊びにきてゲームしたり。毎日がそんな感じでほんと

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“ひとり”という概念を捨てたのは?

石井 人を雇うなんて考えてもいなかった。でもひょんなことから出会いがあってスタッフがひとり増え、さらにまたひとりという感じで増えていって。そこから閉鎖的だった考えが少しずつ変わってきたとい うか。仲間がいることで刺激にもなるし、あらゆる“可能性”が広がるんだなと思ったんです。

“可能性”というのはどういったことなのでしょうか?

石井 ひとそれぞれ性格も考え方も人脈も違う。だからいろんな発想が生まれ、面白いことができるんじゃないかと思って。美容室という枠だけにこだわるのではなく、ここからなにか発信していくのも「menos」らしさではないのかと。数年前までは、ヘアサロンなのに古着や古本も売っていましたからね。

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「モバイルハウス」もそのひとつですよね?

石井 そうですね。坂口恭平さんがつくっているのを見ておもしろいなと。僕は住むとかいう概念ではなくお店の装飾としてつくったんですけど。ここにはミュージシャン、DJ、アーティストなど縁あって出会った人たちの作品を置いていく予定です。そこからまた誰かと誰かがつながって、新しいプロジェクトやアイデアが生まれたりもすると思う。ひとつのサロンが“ハブ”となり人と人をつなぐ。そんな場所に「menos」がなればいいなと。

やはりただのヘアサロンではないですね。

石井 こういうのなんかワクワクするじゃないですか(笑)。

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大隈さん(menosスタッフ)からみて石井さん(menos)はどんな人(どんな場所)ですか?

大隈 本当におもしろいというか変わっているというか(笑)。でも間違いなくここで働くスタッフも髪を切りにきてくれるお客さんも、石井さんの人柄とお店の雰囲気に惹かれて集まっていると思います。僕がまだ客としてここに通っていたとき、「menos」に行くのが楽しみでしたから。なにせ普通のサロンじゃない、ワクワクする空間。「ここで働きたいな」という思いは、いつからか「絶対ここで働いてやる」っていう気持ちに変わってました。

お客さんからスタッフになられたんですか?

石井 そうなんですよ。大隈くんだけじゃなく男性スタッフは、全員お客さんだったんですよ。普通じゃあまり考えられないですけど。みんなここで働きたいって言ってくれるんですもん。今でもお客さんがそんなことを言ってくれるとうれしくて、つい「いいよ!」って反射的に返してしまいそうになりますね(笑)。

スタッフのみなさんも同じ感覚を共有していることは素敵なことですね。

石井 本当にうれしいですよね。僕はみんなにやりたいことができたら、どんどん外に出て行ってはじめてほしいと思っています。何か一緒にできることがあれば、そこでまたつながればいいんですから。だからスタッフのみんなのことはできるだけバックアップしたいし、僕が持っている知識、技術はアウトプットしてすべてあげたいとも思っています。

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もはや愛ですね。

石井 いやいや(笑)。すべてをあげて、またイチからはじめるのもおもしろいかなって思ったりして。

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menosには年に一度“お祭りの日”があると伺ったのですが?

石井 高円寺といえば「阿波踊り」じゃないですか。僕たちもその期間(2日間)はお店をお休みして、スタッフ全員でお酒を飲みながらワイワイ騒ごうと。ここから踊りが見わたせるんですよ。実を言うとそのためにここを借りたといっても過言ではなく(笑)。「阿波踊り」を肴に飲んだら最高だろな、隣の店からなら見えるのにおしいよなと、そんなことを思っていたら隣が空き物件になって。ちょうどタイミング的にもお店のスペースを拡大しようと思っていたのですぐに借りて。そこから期間中は一切仕事はナシでとことん飲みましょうと。阿波踊りを踊られる連の皆さんともつながりがあり、衣装の着替えスペースとして店を提供したりもしていて。最後には連の皆さんとスタッフが入り混じって、ここで踊ったりね。そのとき、なぜか音楽はYMOの『RYDEEN』なんですけど(笑)。

今後の“たくらみ”はありますか?

石井 まだぼんやりとですが故郷の長野で何かして みたいなと。知っているところに200坪くらいある空き工場があるんですけど、田舎ということもあり結構安くで借りれちゃうんですよ。そこで畑をやった り、髪切り場やお店をつくったりしたいなと。わざわざ“人が集まりたくなる”スペースをつくりたいんです。東京と長野を行き来してね。そういうやり方があれば試してみたいですね。スタッフみんなの刺激にもなると思うし。帰省してサロンを開業するんでなく東京でもやりつつ地元でもそういうことができれば、また広がりもできて、新しいアイデアも生まれんじゃないでしょうかね。

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何かやってみたいけどなかなか一歩を踏み出せない。そんな人も多いと思いますが、石井さんはどういう方法でアクションを起こしていくのがよいと思いますか?

石井 アイデアがあれば寝かさず即行動。一度やってみたらいいんです。やればわかるんですからなんでも。もちろん失敗も含めてですけどね。行動することでなにかしらの収穫はありますから、決してムダにはならない。その情報を持っておけば広がりも早くなる。自分の武器になるんですから。あとは人との出会いや縁を大切にしていけば、きっとよいつながりが出てくるはずです。

最後に石井さんのモットーを。

石井 “Do It Yourself”。ずっと“つくる”にこだわたいと思います。そしていろんな“たくらみ”をもって、楽しく人生を謳歌したいと思います。

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石井和昭

1978年生まれ。長野県出身。株式会社TANNEN WORKS
(HAIR STUDIO menos)代表取締役。
26歳のときに独立し、現在9名のスタッフを抱える。
サロン運営のみならず、さまざまなプロジェクトに携わるなど多岐な活動を行っている。

menos
杉並区高円寺南4-24-2第二下田ビル202
03-3318-8056
※2013年11月から同ビル1階に新店舗オープン
http://www.menos.info/