即興と高揚のビートミュージック「TRISTERO」-同世代のニューカマー
即興と高揚のビートミュージック「TRISTERO」-同世代のニューカマー

即興と高揚のビートミュージック「TRISTERO」-同世代のニューカマー

  • Photography/北岡稔章 TOSHIAKI KITAOKA
  • Edit&Text/山若将也 MASAYA YAMAWAKA

ジャズやヒップホップを消化したエレクトロニカって言う人もいる。
アメリカの西海岸からムーブメントが起こっている、
ビート系の音楽(LA BEATS)の要素もある。

くだらないジャンル分けってやつを無理やり当てはめるなら、
TRISTERO[トライステロ]はきっとそんなアーティストだ。
ドラマチックな構成と、静かなのに感情的な高揚感、
振り切れそうでギリギリ留まる、心地のいい抑制。

個人的な感想を言わせてもらえば、とてもビジュアルコンシャスな音だと思った。
都市的だけど都会ではなく郊外の町並みを照らす夕暮れが目に浮かぶような。

例えば、つい居眠りして辿り着いた路線バスの終着駅、
夕暮れの光に照らされた(今じゃちっとも新しくなくなった)かつての
ニュータウン。並び立つ団地の群れはA棟〜F棟あたりまで
お互い入れ替えても住人すら気付かないだろうってくらいそっくりで、
その均一な景色に感じる、デヴィッド・リンチの映画から死の匂いを
濾過したみたいな感傷と高揚感、不確かな懐かしさ。
書いている俺ですらよくわかなくなってきたけど、まあ、そんな感じ。

それにしても、このアルバムを作った「トライステロ」が、
結成してたった1年半だっていうのは驚いた。新代田の駅前、
インベーダーゲームの音がこだまする、レトロな喫茶店でインタビューを始めた。

Takuro Ishikawa(以下タクロウ)「トライステロを始めたのは2012年6月。僕はもともとセッションギタリストとして、ジャズライブなんかで演奏していて。もっと自分の音楽をやりたいと思って、PCでの制作環境を揃えていたら、相方のモグシも偶然同じソフトを持っていて。Ableton Liveっていうやつです。それで、『一緒にやるなら前からこいつしかいない』と思っていて誘ったんです。そこから毎週のように会ってましたね」

即興と高揚のビートミュージック「TRISTERO」 同世代のニューカマー

 Ippei Mogushi(以下モグシ)「モグシイッペイです。タクロウと同い年の1985年生まれ。学生時代はパンクやハードコアをやっていた時期もありました。打ち込みを始めたのは20才くらいの頃。MPC(AKAIのサンプラー。多くのHIPHOPの楽曲を生んだ歴史的名器)を買ってトラックを作り始めたんです」

最初の出会いはいつなの?

モグシ「タクロウとはその頃にジャムバンドを組んでて、そこからの付き合いなんですよ。LOTUSみたいなノリのやつですね。ライブとかはほとんどしていなくて」

タクロウ「ひたすらスタジオでジャムってたよね」

モグシ「トライステロを始めるにあたって、ヒップホップみたいに繰り返しの音じゃなくて、もっとドラマチックに展開する曲を作りたいってのがあって。二人ともバンドをやってた影響もあると思う」

ふたりともバンドをやっていて、フィジカルなバンドサウンドからデジタルの打ち込みへと移行していったってことだね。生音とデジタルの違いはどう思っている?

モグシ「根本的には、フィジカルな音が一番好き。スピーカーを通した音より、生音のほうが気持ちにダイレクトに響くことって多いから。理想は100人くらいの演奏者を集めて『こんな感じで演奏して』って指示できたらいいんですけど、そんな夢みたいなこと、できないじゃないですか? だから、代わりにサンプラーを使って、それを再現してるんですよね」

タクロウ「俺も“その場で実際に鳴っている音”が一番好きかな」

モグシ「でも裏を返せば、デジタルには“その場に存在しない音”を鳴らせる面白さもあるよね。録音した音をまったく別の空間で再現できる。そうすると、また別の効果が生まれる」

タクロウ「さっきからこの喫茶店で鳴っているインベーダーゲームのピコピコ音とか、使えそうだよね(笑)」


「ぶっこみ」から紡いでいく音楽

そして、ジャムバンドがルーツにあるっていうのも確かにうなずける。彼らのライブは、楽曲をその場でアレンジしながら、ジャムセッションのように行われる。現場の空間やオーディエンスとセッションするように音を積み上げていくから、同じアレンジは二度と聞けないし、人気曲を忠実に再現する往年のポップスターみたいなライブはしないから安心できる。 

即興と高揚のビートミュージック「TRISTERO」 同世代のニューカマー

モグシ「ライブは、どちらかというとエネルギーを発散する行為。昔ハードコア系のバンドもやってたんですけど、それと同じような気持ちでやってる。機材はラップトップだけど、音で横っ面なぐってやろうくらいの気持ちで」

タクロウ「『ぶっ飛ばしてやるから見とけ』くらいの思いはこもっちゃいます」

モグシ「ジャムから始まったユニットだから、ライブの即興性っていうのは意識してる。その場、その瞬間にいいと思ったものを取り入れていくっていう。同時に、楽曲の構成についてもすごくこだわってて。例えばミニマルテクノとかって変化が少ない音楽なんだけど、その中にもドラマやストーリーがある。同じ音が続いたあとで、ドカンと大きな音が入って来たりとか…」

聴いてる方は、そういった瞬間にグッと音に掴まれるよね。

モグシ「僕たちは『ぶっこみ』って表現を使うんだけど、ジャズだったらソロを取る人が“ぶっこみ”をカマして、それに他のプレーヤーが反応して構築されていく。そういった作られ方の音楽が好きなんです」

タクロウ「一本調子の曲は作りたくないっていうのはあるよね。単調だと俺たち自身が飽きちゃうから(笑)」

ちなみに今回のアルバムは、テーマやコンセプトはあった?

モグシ「……“ぶっこみ”かな(笑)。ぶっこみについてもう少し話さないとワケわかんないですよね? ぶっこみっていうのはですね……爆発みたいなものですよ。いきなり予想外の音をガツンと突き刺すような。音楽の種類によっては、予定調和的なものが心地いい場合ってあるじゃないですか。ポップスのAメロ〜Bメロ〜サビの流れとか、盛り上がるところが前もってわかることが重要っていう。でも、自分で作るならそれじゃ面白くない。一発、ガツーンとエネルギーを込めた音を入れたいんですよ」

タクロウ「例えば今回のアルバムだと、曲の最初に無反動砲っていう大砲の発射音をぶち込んだり、ドアの開閉とかの生活音を入れたり。普段の生活でも、あらゆる音が音楽的に聞こえてくるんですよ。サンプリングにハマると、日常の音の捉え方が変わりましたね」

モグシ「あ、Boards of Canadaっているじゃないですか? 彼らの音は聞き込むほどに細かいぶっこみがたくさんあるんです。大好きだな」

即興と高揚のビートミュージック「TRISTERO」 同世代のニューカマー

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確かにBoards of Canadaは素晴らしいアーティストだよね.尊敬に値する。じゃあ、次にセッションについて教えてほしい。アルバムの曲も即興がベースだって聞いたけど?

モグシ「今回のアルバムの曲は、ジャムの中で生まれた曲がほとんど。音素材を作って持ち寄って、セッションして。でもね、いいグルーヴが生まれた時って、何やっていたか覚えてないんですよ(笑)。気もち良い感覚だけが残っていて」

タクロウ「それってバンドと同じなんですよね。『いや〜今の良かったよね。でも何やってたっけ?』みたいな、その場一回限りのことで。それが、デジタルだったらそのセッションがデータとして残るから、再現できるんですよ。後でまた発展させられるっていうのは、大きい」


刹那的な感覚を音にとどめる作業

 そういえば、『トライステロ』って言葉について調べてみたら、アメリカ現代文学のある作品に出てくる、正体不明の秘密結社の名前(訳者によりトリステロとも読まれる)なんだよね。その作品の、存在の不確かな何かに向けて不条理をまき散らしながらストーリーが進んで行く感じって、アルバムのタイトルでもある「So Close Yet So Far」、つまり“すごく近いけど遠い”っていう言葉ともリンクする。普遍的に存在するけれども、簡単にタッチできるものではない……それって音楽やアートによって引っ張り出される、日常に潜む高揚感みたいなものかな?

モグシ「そういった見方もあるかもしれませんね。見えそうで見えない、存在は感じるけど、何処探してもいないような……『トライステロ』はそんな正体不明のアイコン。ミュージシャンは誰しもそれを求めている部分はあると思うけど、気持ちいい瞬間って刹那的だし、それを再現するのってすごく難しい作業で。でも、そこを目指している、目指して行きたいっていう思いはありますね」

抽象的なものを形にする作業。掴めそうで掴めない感覚。非現実的なものを形にとどめるその作業=アートっていう考え方もあるだろうね。少し話が変わるけど、最近ふたりが注目しているミュージシャンや音楽は?

モグシ「 LAのビート系の音楽」

タクロウ「OILWORKSのichiro_さん」

じゃあ、音楽に限らず同世代の30才前後のアーティストだったら?

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モグシ「『Denryoku Label』っていうテクノレーベルをやってるatnr。彼がやってる『廣島電力』っていうテクノバンドはすごく面白いです。ギターやダンサーがいるようなバンドで。シェアハウスに住んで音楽やってる人達」

タクロウ「レーベルの主催者でもあるpeach onfuse。彼女のストイックさには影響受けてる。バイタリティがすごい。彼女が引っ張ってくれたから、アルバム作ろうと思ったんだよね」

モグシ「 面白いことやってる人、たくさんいる。挙げたらきりないけどね。みんな同じだと思うけど、基本的にはやりたいこと、やってるだけだと思うな」

最後に「MOUTAKUSANDA!!!」な出来事を教えて?

モグシ「駐禁。来るの早すぎでしょ、っていつも思う。3分くらいで来るじゃん。あとはいつも文句ばっかり言ってる人。テレビ番組の『スッキリ!』出てるときのテリー伊藤さんとか。あの人の雰囲気は好きなんだけど・・・みんな「もういいじゃん」って思ってるニュースとかにも、さらに文句をぶっこんで来るっていう。あのぶっこみは頂けないですよ(笑)。それとね、高田馬場にコンビニが多過ぎるんですよ。もっと違うことやったらいいのに」

タクロウ「ファミマ多すぎだよね。コンビニの話じゃ参考にならないんじゃないの?(笑)」

モグシ「いや、みんな同じようなことやるのは、面白くないって話ですよ。一辺倒すぎて」

 Special Thanks/nam Gallery, gallekikaku

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トライステロ

2012年から始動したレーベル [sproutail] の第一弾アーティストとして、東京を拠点に活動開始。サンプリングやシンセサイザーを駆使したエレクトロニックビートを生み出し、即興によるライブパフォーマンスにも定評がある。現在、1stアルバムが発売中。
soundcloud

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1st album『SO CLOSE YET SO FAR 』
2,000yen+Tax Label:Sproutail