MOUTAKUSANDA!!! 編集部でも何か考えようって
話になったんだけど、なかなか決まらなくて。
考えてみたら当たり前の話だよね、映画の趣味はもちろん、
本棚にある写真集のラインナップも、お世話になったポルノスターも、
パンにぬるジャムの味さえもバラバラなんだから。
ハナからひとつにまとめるのはちょっと無理があった。
ただ、この自分勝手なメンバーでも、嫌いなことだけは共通していて。
自分に言い訳だけはしないってみんな口を揃えて言っている。
「もういい歳だからやめておこう」
正直これまで何度も頭をよぎったことはあったけれど、どうやらそれはダサい言い訳で、
エキサイティングな人生を送りたい僕たちにとっては、ただの邪魔にしかならないみたい。
そんなモットーに確信を持てたのも、
スペシャルなタイミングで面白い人に出会えたから。
その人物は映画監督のリム・カーワイ。
彼は中国・日本・マレーシアなどを漂流するノマド映画作家で、自称「シネマ・ドリフター」。
もともとサラリーマンだったけど30才で脱サラ、その後、映画監督になると決め有言実行した人らしい。
とにかくインタビューを読んでみてほしい。
きっとダサい言い訳をする時間があったら、
動き出すべきだって思えるはずだから。
もし読み終えたら、オーディトリウム渋谷か、池袋シネマ・ロサに出かける準備を。
彼の最新作『恋するミナミ』が公開中だからね。
東京公開は17日まで。
その間、彼は毎日劇場にいるらしいから、
万が一このインタビューじゃ満足できないっていう人がいたら、
彼に会って直接話を聞いてみてよ?
- 撮影/七咲友梨
- インタビュー・文/霜嵜和敏
- 構成/山若将也
みじめでもけなされても僕には自由に生きる“覚悟”がある。
みなさんは自分らしく生きていますか?
INTERVIEW
人生は一度きり。
自分のやりたいことをやらずには死にきれない。
「Fly Me To Minami 恋するミナミ」公開おめでとうございます。
リム・カーワイ(以下リム): ありがとうございます。演者、スタッフをはじめ、さまざまな方々の協力のもと無事公開を迎えることができてうれしい限りです。
監督はサラリーマンを辞めて映画の世界へ飛び込んだんですよね。今日はそんな監督の生き方について聞きたいと思ってます。映画監督として活動するまでにどのような経緯があったのですか?
リム: 僕は日本の大学を卒業してから、エンジニアとして東京で働いていました。だけど一日中モニターとにらめっこするだけで。人と話すことが大好きな僕には退屈な仕事でした。入社する前はもっと人とかかわれる仕事だと思っていましたからね。そこに6年務めました。
それはちょっとつらいですね。でもよく6年も続きましたね。
リム: 10年日本に住むと永住権が申請できるんですよ。手続きに1年かかるので計11年ですね。本当は3年目のときに辞めようと考えていたんですが、その時点で日本での生活は8年経っていて。ここで辞めたらもったいないと。だからあと3年は頑張ろうと思っていました。
永住権を取得したらあとは自分の好きなことをしようと。それまでは我慢しようという時期があったんですね。そのときから映画監督になろうと?
リム: いやいや。僕は映画が本当に大好きで、数えきれないほどの作品を観てきた“シネフィル”、いわゆるオタクではありましたが、さすがに撮ろうとまでは思ってませんでした。
かなりの映画狂だったと。
リム: 会社に入ってからも年間300~400本の映画を劇場に観に行ってましたから。みんな残業していたけど僕はしなかった。いかに働いてなかったか(笑)。終業時間ジャストに帰って、映画館に出かけるのが日課。あと有休を使って映画祭に出かけたり。1週間休みをとって釜山映画祭に行ったりもしてました。
映画を観るために働いてるような毎日ですね。で、なぜそこから映画監督の道を?
リム: まさにそう。それで3年目になって会社がいよいよつまらなくなり、転職を考えはじめて。でも、いざ転職となると何の仕事がしたいのかもわからない。エンジニアのスキルはあるけれどそれでいいのか。違う会社に入ってまた同じようなことになっても嫌だし。さんざん悩みに悩んで、ある日ふと思ったんです。どうせ仕事を変えるなら好きなことをしよう。じゃあ答えは簡単、映画をつくるんだと。躊躇はありませんでした。人生は一度きり。後悔のないように生きようと決めたんです。
どこの国で何をしてても映画を作ることだけ考えている。
つまり僕は映画の国の住人。
だから〝シネマ・ドリフター”。
会社を辞めたのは何才のときですか?
リム: 30才のときですね。
世間からみるとなかなかいい年齢ですよね。そこからどうしたんですか?
リム: 北京の映画学校に入りました。映画づくりの知識やノウハウはなかったので。
えっ? 北京にですか?
リム: 日本には当時そういった学校が少なかった。あっても学費が高い。いろいろ調べた結果、北京の学校が一番安かったんです。生活費も安くすむし。永住権の問題がなければもっと早く行けていたかもしれないですけど。それもまたタイミングです。
そこから映画監督になるための修行が始まった。
リム: そう。でも北京の映画学校、半年で辞めたんですよ。やっぱり現場で実践的に学んだほうが早いなと。そこから僕のドリフター生活が始まるんですけど。
監督が自称する“シネマ・ドリフター”ですね。それってどういった生活なんですか?
リム: 僕、放浪癖があるんですよ。というのには理由があって。学校を辞めたあと映画の現場に入ったり、短編をつくったりしていたんです。でもお金もなくなっていくし、映画の現場も年中あるわけじゃない。そんなとき何をするかというと、日本に行ってアルバイトするんです。出稼ぎに。20万円くらい稼いだら、今度はお金がかからず楽しくすごせる場所に旅立つ。カンボジア、バンコク、ベトナム……。バックパッカーとして放浪するんです。そのほうが安く暮らせるし、多くのことを吸収できる。そうやって自覚したんです。自分は「流れ者」だって。
アジアを旅するさすらい人だ。放浪して何か見えてきたものありました?
リム: 自分は映画が好きなんだなとあらためて気づきました。映画を撮る準備として、風景や人々を目に焼きつけている。どこで何をしていても映画のことばかり考えているんです。僕は自分のことを“映画”という国の住人であると思っている。そのために漂流しているんですから。だから“シネマ・ドリフター”なんです。
かっこいい! でも30才にしてまたゼロから何かを始めるって不安じゃなかったですか? ましてや映画監督ってなんかハードルが高そうですし。
リム: それがそうでもない。僕は、昔からあまり将来のことを考えない性格。今40才なんですけど老後のことなんてまったく考えてもいない。たしかに不安要素はありました。それは自分のことではなく、当時付き合っていた彼女や自分の家族に対して。心配させてるんだろうなって。僕は家族や地元の人たちに期待され日本に留学し、日本の企業に就職した。彼らからすればエリートに見えていたと思う。だけど実は僕はそんなものに興味はないし、どうでもよかったんですよ。
体裁なんてどうでもいいから、自分のやりたいことをやろうと。
リム: そう。つまらない人生を送るのはうんざりだった。でも両親にとっては「せっかく自分の息子を海外に送り出したのに」という思がある。最初の1年間は生活費も出してまらっていましたからね。それなのに仕事を辞め、安定を捨てて何の保障もない映画監督に転職したわけですから。心配しますよね。
でも、やりたいことをやって、幸せで元気に暮らしている姿を見れば両親もうれしいと思いますけどね。
リム: 今でもすごく心配されてますよ。マレーシアの人々の映画に対する観念はハリウッドか香港映画だから。自主制作の映画についてはまったく知らないし、公開のチャンスもない。だから僕が映画を撮ったって言ってもあやしまれている。有名な役者が出てないからね。「なんであなたの映画にはジャッキー・チェンが出てないの?」と聞いてくるから。出るわけないじゃんって(笑)。
なるほど、いろんな問題があるんですね(笑)。
リム: こればっかりは説明がしづらいんですよね。
もう僕は走り続けるしかない。止まると死んでしまう。
「恋するミナミ」に出演している小橋賢児さんが、インタビューで、「自分のやっていることは仕事という感覚はない」と言っていたのが印象的だったんですが、監督はどうですか?
リム: 仕事というより全部ひっくるめて「人生」ですかね。仕事というのは、始まりがあって、終わりがある。そして給料がもらえる。僕がやっていることはお金にならない(笑)。それにいつ始まったかもわからないし、いつ終わるのかもわからない。そう考えるとやっぱり仕事じゃないですね。今40歳なんで、うまくいけばあと30年は生きれる。お金とか、そういった物理的なものより、残った人生をいかに楽しくやっていくかが重要。そのために映画監督という道を選んだんです。
人生か、深いですね。では、映画監督=人生を続けるために必要なことって何ですか?
リム: まず、撮りたい題材があるか。2つ目は資金。3つ目はスタッフと自分のイメージした役者がいるかどうか。これさえ整えば映画はどこでも撮れると思っています。あと、その環境をつくるために拠点も必要なのかなと。そろそろ僕も次のステップを考ないといけない時期かもしれないですね。
えっ? “ドリフター”ではなくなるかもしれない?
リム: そう。映画監督を続けるためには、次作を撮る環境をしっかり整える必要があると感じてきて。流れ者生活をしているとそれがなかなかできなくなってきている。大阪を拠点にしようかなと。大阪を舞台として2作品をつくり、思い入れもあるし、いろんな出会いも増えたので。
東京に拠点を置く人が多いなかで、大阪にする理由ってなんですか?
リム: アジア的なところです。そこが好き。僕は大学の時に4年間大阪、その後東京に10数年住みました。東京に移りたての頃は、人のクールさに違和感を感じて。慣れるとそれが居心地いいこともある。周りが冷たいわけじゃなく、お互いを尊重しあっている雰囲気。でも僕はもっと人と密に接していたい。それで大阪が舞台の『新世界の夜明け』という作品を撮ったときにあらためて気づいた「大阪はアジア的だ」って。フレンドリーなんですよ。街も人も。
定住することが新たなステージだと考えるとワクワクしますね。
リム: 僕は止まると死んでしまうから。やるしかない。行動し続けるしかない。もう取り返しもつないところまできている。だから走るしかない。若い頃は映画を観すぎて、それこそストーリーの主人公のように「こんなこともしたい」「あんなこともしたい」と思ってました。でも今は映画を撮るしかない。自分の好きなことを突き詰めるしかないと思っています。
言い切れるところが本当にすごいことだと思います。なかなかできることじゃないですから。ちなみに今大阪に住んでいるんですか?
リム: いえないんです。
言えないですか…すいません、秘密なんですね。
リム: いや違います。”言えない”じゃない。”家ない”んですよ(笑)。まだ流れ者ですから、日本で定住する家を決めてない。バックパッカー生活ですよ。リュックサックひとつに必要なものを全部入れて。大阪や東京を行ったり来たり。昔はキャリーバックを使ってたんですけど、今じゃ小さいリュックで十分。
リュックひとつですか! ちなみにそのリュックってどで買ったものです?
リム: メイドインチャイナ。特にブランドとかじゃない。こだわってないんですよ。荷物が入ればなんでも変わらないですよ。自分にとって本当に必要なものにだけ、こだわりが有ればそれでいい。
家がない映画監督って聞いたことないですよね。でも、その生活はうらやましくも感じます! そんな監督の今後の夢は?
リム: 作品を撮り続けること。自分のなかに残る作品を作りたい。これまでの作品も残るかもしれないですが、「もっとこういう映画をつくりたい」という野心は尽きない。今はまだその準備段階。だから撮り続けるんです。撮り続けていると、また撮りたいものが必ず出てくる。その繰り返しですね。
何かやってみたいけど、なかなか踏み出せずにいる人たちに向けて、監督自身の経験からアドバイスをください。
リム: 周りを見ていて思うのですが、踏み出さない人はいつも他人のためだと言い訳をしている。家族だとか恋人だとか。“絆”を断ち切ることができない。さらにいうと"絆”は建前で、本当は自分のため。他人の前で失敗したくない、かっこ悪く見られたくないだけ。自分のために、利己主義になる覚悟を持っていない。でもそれじゃだめだ。もっと自分のために生きないと。みじめでもけなされても自由に生きる勇気、覚悟が必要。家族を言い訳にしてはいけない。親不孝といわれるかもしれないけど、僕は自分らしく生きている。少なくても言い訳や後悔はしないです。
“動き出す”って簡単なことですか?
リム: 簡単です。やればいいだけなんですから。みんな知らないかもしれないけど、映画に限らず何をつくるにしても1作目は、まずカタチにできる。「初めて」ということは特権であって、一生懸命頼めばみんな協力してくれる。作りたいテーマも見えた状態でスタートするわけですし。難しいのは2つ3つと続けて行くこと。断言しますが、一歩目も踏み出せない人は考え過ぎですよ。「かっこ良く思われたい」「このカタチじゃないといやだ」って理想を語ってるだけで踏み出さない。もったいないよ。本気でやれば1作目は必ず形にできるから、本当に。動いてからたっぷり考えたらいい。つくった後も、結局悩みはつきないからね(笑)。
時折ジョークも交えながら場を盛り上げてくれて、
おちゃめって言葉がよく似合う人だった。
会う前に『恋するミナミ』を観てきたんだけど、
いろんな話を聞いているうちに
もう一度観てみたいって心の底から思ったよ。
今後の作品も本当に楽しみ。
1973年、マレーシアのクアラルンプール出身。1998年大阪大学基礎工学部電気工学科卒業。 通信会社で6年間エンジニアとして勤めた後、2004年9月に北京電影学院の監督コースに入学。2009年、北京で撮影した『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』で長編デビュー。2010年香港国際映画祭、大阪アジアン 映画祭、サンパウロ国際映画祭に公式招待される。2010年、第2作目『マジック&ロス』を香港で撮影し、釜山国際映画祭で初上映され話題を呼ぶ。同年、 立て続けに撮った第3作目『新世界の夜明け』ではCO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)の観客賞&技術賞をダブル受賞。待望の新作2『Fly Me To Minami~恋するミナミ~』が現在、オーディトリウム渋谷ほか全国公開中。
『Fly Me To Minami〜恋するミナミ~』
監督:リム・カーワイ
出演:シェリーン・ウォン、ぺク・ソルア、小橋賢児、竹財輝之助、藤真美穂、石村友見
配給:Duckbill Entertainment
オーディトリウム渋谷ほか全国公開中
公式サイト:http://flyme2minami.com/