「“いいこと”なんてクソくらえ」HELLO GARDENが提案する“郊外で暮らす”というヒップな遊びかた
「“いいこと”なんてクソくらえ」HELLO GARDENが提案する“郊外で暮らす”というヒップな遊びかた

「“いいこと”なんてクソくらえ」HELLO GARDENが提案する“郊外で暮らす”というヒップな遊びかた

「“いいこと”なんてクソくらえ」
HELLO GARDENが提案する
“郊外で暮らす”という
ヒップな遊びかた

不毛な支払いを迫られ続けること、それが問題だ。

90年代に“Choose life”っていうアジテーションを繰り返した「トレインスポッティング」は、2017年公開の続編で“Facebook、Twitter、instagramを選べ”って言いだした。俺たちには、一体どれだけのチョイスが用意されているんだろう?

使い捨てるために買うビニール傘、コンクリートの熱帯から逃れるクーラー代、500mlで130円の水、10分の移動時間を節約するタクシー……問題は、選んでいるつもりで選ばされていることだ。

忙しく働いて稼いだ金が、不本意なモノやサービスに生まれ変わる不毛なループ。ここから抜け出すにはどうすればいいんだ?

ひとつ、ヒントになる場所を紹介しようと思う。それは都心から1時間ほどで到着する小さな街にある。<HELLO GARDEN>という名前の実験農園だ。

はじめに断っておくけど、この農園にはハードなナチュラリストも、理想主義めいたソーシャルデザイナーもいない。それどころか、主宰者は「“いいこと”をするつもりはない」と言う。信用できそうだろ?

さて、そろそろ話を始めよう。時は2016年の夏に遡る。俺は写真家を連れて<HELLO GARDEN>のある西千葉駅に降りたところだ。この日俺たちは、田舎でも都会でもない、第3の選択肢を発見することになる。

退屈に見えた西千葉の、ごきげんな住人たち

「いいカメラだね」

徒歩よりいくらか速い程度のスピードで進む自転車にはベンツのエンブレムが取り付けてある。その自転車のドライバーが物珍しそうにPENTAXの中判カメラを眺めている。「何撮るの? オジさん撮る? おっちゃんは、顔がいいでしょ。ハハハ」と言って、カメラに収まるためのポージングを探りだした。

俺は、写真家の七咲友梨を連れて西千葉の街に来ている。飲食店やローカルの本屋が並ぶ駅前のエリアを抜けると、適当な地方都市の住宅街をコピー&ペーストしたみたいな風景が、延々とつづく。

「はじめて来たのに見た事ある感じだね。私の地元にもこういうところある」

新旧の一戸建てと空き地と公園、たまに破格のコインパーキング(誰が使うんだ?)で成り立った、既視感のある街並を10分ほど歩くと、今日の目的地<HELLO GARDEN>が唐突に現れる。俺たちは到着するなり、おじさんに話しかけられていた。彼曰く、今日は町内の盆祭りがあるらしい。そして、盆踊り会場の向かいに位置する、ここ<HELLO GARDEN>でもパーティーを開く。

「ねえねえ。それカメラ? 見せて」

ベンツおじさんを撮りおえると、話しかける頃合いを見計らっていた少年が近寄ってきた。ここの住人がオープンマインドなのか、カメラ好きが多いだけなのか? まんまとカメラを奪われた七咲が、そのへんに転がっていたキックボードで少年を追いまわしている。

俺たちがこの<HELLO GARDEN>に来ることになったのは、主宰者のひとり・メイから連絡があったからだ。彼女を探しに、農園の中へと進む。

メイ、HELLO GARDENの正体はなんだ?

「こんにちは! 今、お祭りの準備してて。ちょっと待っててくださいね」

彼女が<HELLO GARDEN>の主宰者のひとり・メイ。相棒のサチコと一緒にこの“暮らしの実験場”を運営している。

メイに「急がなくても大丈夫」と伝えて、あたりをぐるり眺める。半分が畑(彼女たちはここを「実験ガーデン」と呼んでいる)、もう半分がイベントスペースの広場という構成。畑では野菜やハーブが育てられていて、水道と電気も通っている。広場には机とイス、今日のために作られたらしい、ドリンクスタンドや販売ブースが並ぶ。

入り口の案内によれば、<HELLO GARDEN>とは「楽しい暮らしを自分たちでつくる実験広場」。そして「地域の人に楽しく暮らすヒントを提供するローカルメディア」でもあるとのことだ。

ランチパーティー、講義、醤油作り、本の持ち寄り会……。定期的に開かれるイベント。イベント以外も、10:00〜17:00でオープンしていて、水曜と日曜は定休。

「暮らしの実験」っていうのは具体的に一体何をしているんだろう? この場所の実態を掴みかねないでいると、ちょうどメイの作業がひと段落ついたようだ。

「いやー連れ回されたよ。でも、アイツけっこういい写真撮る」

少年からカメラを取り返した七咲が戻ってきたところで、話が始まる。さあ、この場所の正体を教えてくれ。

興味のなかった西千葉が、好きになった

「千葉大学に通ってた頃は、街が楽しくなかった」

そう話すメイは1989年生群馬生まれで、千葉大学生の頃からここ西千葉で暮らしている。一見よく笑う明るい女の子。少し話せばシニカルな視点とインテリジェンスを持った人間だとわかる。相棒のサチコと<HELLO GARDEN>の活動を初めて3年がたつ。まずは、この場所が生まれた経緯から、話を始めよう。

「西千葉の若い人って、千葉大生が多いんですよ。この近くにキャンパスがあって。そうです、私も千葉大学出身。当時は大学生同士で遊ぶのが楽しくて、大学の敷地から全然外に出てなくて。街には出てなかったですね。でも卒表間際の頃かな、地域の人との接点が増えてきて。『呼吸』っていう、このあたりでは“伝説のバー”って呼ばれてる場所があったんです。12年やって最近やめちゃったんだけど。千葉大学のメインストリームから外れてる人たちや、この辺りに住んでるアクの強い人とか。とにかくクセもののたまり場みたいな。そんなバーでした。今はもうないんですよ。お店は閉まっちゃった。12年やって、伝説を残して。私も縁あって、卒業前の頃から出入りするようになったんです。そこではじめて学生以外の人と交流して。すっごく楽しくて。『この街って面白いかも』って思うようになった。うん、それまでは「街」じゃなくて、大学基準だったから。ちょうど大学卒表したあとの就職先を決めてなくって」

就職したくなかったの?

地元に帰ろうと思ってたんですよ。

地元はどちら?

群馬です。

群馬だ。じゃあ大学出て、群馬の実家に戻ろうと。

地元でお金貯めたら、ふらふら世界を旅しようかな、とか。へへへ。今思うと青臭いですね。

それが結局、西千葉に残ることになった。

なりましたね。『呼吸』に出入りしだして、この街が無性に居心地よくなって。だから、卒業間近に思いついちゃったんです、「この街に残ろう!」って。

ギリギリだね。

ギリギリ。家も引き払っちゃってたくらい。

ははは。家無しだ。どうしたの?

キャリーケース1個に荷物まとめて、友達の家を転々と……。

仕事はどうしてたの?

フリーターです。いくつか掛け持ちしながら、『呼吸』でバイトも始めて。

いいね、面白そうな方に外れてきたね。

そうそう。その頃仕事のひとつに、まちづくりの会社があったて。東京の会社だったんですけど。

東京まで通ってんだ。

通ってました。その会社の仕事が面白くて。そのまま就職することになったんです。でも東京に出るのは負けた気がするっていうか。

家なくしてまで、西千葉に残るって決めたもんね。

それでどうしようかって思ってたら、縁あってその会社の仕事で出会った人がいて。その人が「西千葉の街を盛り上げたいから、仕事としてまちづくりをやってほしい」って。

すごいタイミングだね。

本当ですよね。それで東京の会社の仕事という形で、西千葉の街に関われることになったんです。

「楽しく生きる」ことは思ったより難しい

「まちづくり」ってのは、よく聞く言葉だ。俺にとっては何をどう作ってるのか?って感じで正直イメージがわかないワードでもある。そもそも街って作るまでもなく、存在しているとも言えるんじゃないか?って。

そう率直に伝えると、メイは「実は私もそこに悩んで。でも、やっと自分なりの結論が出た」と言った。

いざ西千葉の「まちづくり」をやることになって、考えちゃったんです。まちづくりって何だろう? 私は何をしたいんだろう?って。

根本的な部分を。それで、行き着いた先が……。

「楽しく生きていければ、何でもいいや」って、そう思ったんです。ただ、同時に「楽しく生きることって、なんて大変なんだ」とも。

楽しく生きることが大変……それは、経済的な意味で?

お金もそうだし、暮らす上でのいろんなルールやマナーとかもそう。いろいろと気を使うことも多いし。でも「ただ楽しく生きることが、どうして大変なんだろう?」ってことが一番の疑問で。

うん、たしかに。

その理由を考えてたら、自分に“生きるスキル”がないことだと思ったんです。

生きるスキル?

そう。例えば食べ物にしても、野菜を「買う」という選択しか持ってない。お金にしても、求人の中から「仕事を選ぶ」ことしか、稼ぐ方法を知らない。仕事してお金を稼いで、モノを買うことでしか生きられない自分に気がついたんです。

なるほど。スキルが足りないから、なかば受動的に経済と消費のループにガッツリ組み込まれてしまう。

それって、私にとっては“生かされてる”感覚っていうか。生きる方法を自分でチョイスできていない。そんな状態じゃ、生意気なことも言えないなあって。

ふふふ。好きなこと堂々と言いたいもんね。

学生の頃は研究室のプランターで野菜育てて食費浮かすくらい、たくましかったのに。

プランターで育つんだ。

ガンガン食べてましたよ。建築学生だったんですけど、ぜんぜんお金なくて。学費や参考書代がバカにならないし。

そうやって生き方をクリエイションする力が、社会に出て薄れてしまったと。

そうなんです。だから、「作ってみよう」って。食べものや道具、エネルギーとか。暮らしに必要なものが自分で作れれば、選びたくないチョイスは選ばない、そんな生き方ができるかもしれないって。

それがさっきの、「生きるスキル」っていう。

そうです。生きることについての、自分のスペックを高めるっていうか。

その実験をする場所が、HELLO GARDEN。ってことで合ってる?

はい、そのとおりです。

やっと辿り着いたね。個人の生きるスキルを高める実験をする場所・・・・・・あれ? 街作りはどこにいったの? 

正義感たっぷりの“まちづくり”はしたくない

メイの話でわかったのは、この<HELLO GARDEN>は西千葉のまちづくりプロジェクトとして始まったってこと。そして、既存の経済やシステムへの依存度を主体的にコントロールできるような“生きるスキル”を高める実験として、食物づくりやイベントを行っていること。

じゃあ、その活動が、西千葉の街とどう関わるのだろう? そう聞くと、メイは「これは、正義感のあるまちづくりじゃない」と言う。

街のブランディングをしたり、人が集まる空間を作ったりとか。そういった“いわゆるまちづくり”とは違うことがやりたくて。正義感たっぷりのまちづくりじゃないことを、私たちはやっていこうと。“いいこと”をしようとしない。

“いいこと”をしないまちづくり……面白いね。

私たちがやりたいのは、街に暮らすひとりひとりに作用するようなこと。派手で大げさなことじゃなくて、もっと個人的なもの。街の最小単位って、個人だと思うから。

ああ、確かに。

地域に暮らす個人それぞれの、生きるスキルやクリエイティビティが高まっていけば、結果的として街がよくなっていくはずだって。

なるほど。

そういうイメージを提案して、この場所で活動できることになったんです。それが3年くらい前。最初は私ひとりで、何をやるかも決まってなくて。西千葉で土地を手に入れちゃったけど、どうしようっていう感じで。手探り状態のスタートでした。

現在の活動内容としては?

まず、野菜やハーブを育ててます。畑も育てるものは、基本的にお店で買えないもの、買うと高いもの。

それはどうして?

3年やって気づいたことなんですけど、手間がかかる野菜を作って疲弊するくらいだったら、それはスーパーで買ってもいいんじゃない?って。

なるほど。

例えば、すごく手間をかけて美味しいナスが作れたとします。でも、そのナスを継続的に作り続けるのは、個人レベルだと難しいかもしれない。だったら、ナスはスーパーで安く買うことにしよう。その代わりに「買うと高いけど、作ると安い野菜」や「このへんじゃ売ってない珍しい野菜を作ってみよう」とか。試行錯誤しながら。

お金に頼る部分と、自分で作る部分。その配分をまさに実験してるんだね。エネルギーはどうしてるの?

ちょっと悔しいけど、今は電力会社に頼ってます。

自家発電とかはやらないの?

ソーラーパネルと自転車発電を試してみたんだけど、まかなえる電力が思いのほか小さくて。自転車なんてすっっごく大変! それで、自分で発電するのは難しいってわかったから、今はまだ電力会社から買ったほうが効率的だって。

ははは、自転車は大変そうだな。ひとつずつトライ&エラーで実験してるんだ。

そう、「コレは続けよう」「コレは大変だからやめよう」っていう実験。

彼女の話は明確だった。「よりよい社会のために」みたいな押しつけがましさはみじんも無い。このインディペンデントなマインドは、見方によっては個人主義的に写るかもしれない。でも、個人の欲求を覆い隠した“いい人”“いい団体”ほど不気味なものはないかもね。

プリンセスガーデンをモデルケースに

「メイちゃん、この照明、電源どこから取るのー?」
「はーい、今行くね! ごめんなさい、ちょっと待っててくださいね」

彼女が電飾のセッティングに入っている間、改めてHELLO GARDENの中を歩いてみる。

収穫してるの?

「そう、こっちはトマト、あっちはミント畑。ミントはモヒートにしてお客さんに出してるんです」

これは?

「ここから15分くらい車で走れば、海に出んです。これは海の石で作ったピアス。メイさんが作ってるんですよ」

「これは、自家製の果実酒。炭酸で割ってレモンサワーに。飲みますか?」

ありがとう、それとビールを1つ。あと、そっちのフードも、そう。

ちょうどいいタイミングでDJがミキサーを操りだした。四つ打ちのビードがフェード・インしてくる。俺はメイの作業がしばらくかかりそうなのを確認して、つみたてのハーブを使ったライスボウルをつまみにビールを飲む。野草のフレッシュな香りと素っ気ない味つけが、すごくうまかった。

「ごめんなさい、待たせちゃって」

ううん、待ってたってより、楽しんでたよ。

「よかった。あの、さっき話しそびれたんですけど、この<HELLO GARDEN>のモデルになっている場所があって」

なんていうところ?

「プリンセスガーデン。ベルリンのど真ん中にある都市農園。鼻ピアスとかタトゥーの若い人たちが野菜育てたりして。水やりしながら政治の話をしてたり。食も政治も経済も、自分の暮らしを自分で変えようとしてるムードがすごくいいなって」

<HELLO GARDEN>のもう一人の主宰者、サチコとも「プリンセスガーデン」がきっかけで意気投合した。3年前、空き地同然だったこの場所を手に入れたメイは、まずは仲間が必要だと考えた。そのときに出会ったのがサチコだ。

サチコ「2013年です、メイさんに会ったのは。大学4年で、何をしようか決めてなかった頃で。ちょうど、ベルリンのプリンセスガーデンの話で盛り上がって。そう、私はドイツに留学してた頃に行ったんですけど、すごく衝撃を受けた場所だったから。プリンセスガーデンをモデルケースに、ふたりで少しずつイメージを固めていきました。食を起点にして、そこから暮らし全体に拡げていこうって」

ここのモデルになった「プリンセスガーデン」っていうのは、どんな場所なの?

サチコ「元々はゴミの溢れた空き地を、ゴミ拾いから始めて、耕して、野菜を植えてっていう。有志のボランティアの人たちの自主的なDIYで始まった場所なんです。『自分たちの食べ物を自分たちの街でつくろう』って。モバイルコンテナを畑にしてたり。見た目も面白いンですよ。カフェがあって、お店の手伝いをすると食べ物が安くなったり。すごくオープンなムードで、若者も、お年寄りもミックス」

パーマカルチャーとか、コミュニティーファームとかそういった流れなのかな。

サチコ「都市で野菜を作ろうっていうムーブメントの先駆けですね。日本の共同農園だと個人の区画できっちり分かれているものが多いですけど、プリンセスガーデンはみんなで育てている感じなんです。できた野菜は近隣のレストランに売ったり、園内のカフェで使ったり。農園に集まる人にとっては、野菜作りのノウハウを学べる場所だったり。経済も人のコミュニケーションも、その農園を中心に回ってるような。それがすごくいいなって」

サチコはどうして<HELLO GARDEN>に参加しようと?

サチコ「西千葉って、前は『何もない街』って思ってたけど……よく見れば面白い場所も人もあって。ドイツから帰って来て、改めて西千葉を見るとすごく魅力的に見えたんです。そのフレッシュな感覚を保ちながら暮らすにはどうすればいいんだろう?って。メイさんともそういうことを話すうちに、HELLO GARDENでやってみようと思ったんです」

<HELLO GARDEN>のどこが面白い?

サチコ「このプロジェクト自体が成り立つことが。面白いです。この活動をしながら生活できているのが、すごくエキサイティングです。これから何が起こるのか、何ができるのか。すごく楽しみ」

<HELLO GARDEN>のこれからを聞くと、サチコは少し考えて「わからない」と言った。「どうなるか、何が起こるかわかない。試行錯誤の毎日で。でも、それが本当に面白い」。

「郊外」には、都市と田舎両方の魅力がある

少しずつ日が傾いてきた。俺は3本目のビールをオーダーして、しばらく音を楽しむことにした。

ふと気づく。毎晩、100単位のパーティーのある東京にいると、気づかないうちにジャッジが厳しくなる。「あの音はダサい」「あいつはヤバい」って。でも、今この場所にいるとそんな判断は邪魔だと思える。気持ちのいい屋外に人が集まって、デカい音が流れている。それだけで十分だった。

サチコは「外側のフレッシュな感覚で地元を見る」って言っていた。俺は逆に西千葉のパーティーで、フレッシュな感覚を取り戻した気分だ。そういえばメイは「西千葉のこのあたりには、若者が遊べる場所がどこにもない」と話していた。「遊ぶなら東京に行くのが当たり前になってる」って。

メイ「東京に行くのもいいけど、私は歩いて15分くらいで行ける場所にも遊び場が欲しい。西千葉に住んでいるからといって、地元での遊びをあきらめるのはイヤなんです。何かを犠牲にしてこの街に暮らすつもりはないから。遊び場がなければ、作れば良いって。たぶん、イベントのクオリティや出演者のネームバリューでいったら東京には敵わないです。最高の音響で最先端の音楽やプロのミュージシャンの演奏を聴きたければ東京に行ってもいいと思うんです。電車に1時間揺られてれば着くから。でも、そこまでクオリティの高い音楽体験って、毎週毎晩必要なのかな?って。たまには都会に出てもいいけど、普段気軽に遊べる場所が地元にあれば、暮らしはもっと楽しくなる」

今日のパーティーもそのひとつってことか。でも、どうしてそこまで西千葉にこだわり続けているの?

都心から1時間の郊外っていうのがポイントで。<HELLO GARDEN>の活動を里山みたいな場所でやったら、けっこう普通だと思うんです。

たしかに、そうかも。

私は生まれ育ちが群馬のド田舎で。私にとって田舎の生活は“我慢”になっちゃう。遊びもおしゃれも諦めなきゃいけないことが大きいから。私は都市の刺激もほしい。だから、都心から1時間のこの場所はベスト。

なるほど、「郊外」はキーワードかもね。都市も近くてローカルのムードもある、都会と田舎のハイブリッド感っていうか。

いいとこ取りできる立地なんですよね。都市の経済やカルチャーの恩恵も受けながら。

他にも都心から1時間くらいの場所ってあるんじゃない? 神奈川の方だと、同世代で同じような価値観の人が多そうだけど。

西千葉は、土地が安いんですよ。コンスタントにかかるお金を抑えて、浮いた分で遊ぶのが楽しいと思ってて。お金じゃなくてもまかなえるものは抑える。浮いたお金で、お金を使わないと楽しめないものを思いっきり楽しみたい。

ははは。すごく正直だね。

それに、西千葉は自分たちと価値観の違う人ばっかり。それもすごく好きなところ。同じ価値観の人が集まったコミュニティは、ともすると無意識的に外の人を見下すような空気が生まれかねない。それは危険だなって。排他的にしたくないんです。資本主義も里山の暮らしも否定しない。都会と田舎、両方のいいところを取り入れて生きる方法を模索したい。西千葉は、そういうことができる場所だって思うし、地域の人も同じように思ってくれたら、すごく嬉しい。

メイは「私はヒッピーでもナチュラリストでもない」と言う。都市の狂騒と、田舎のレイドバック。セレクトショップに並ぶ上質なコートと、オーガニックな野菜の旨さ。その両方が好きなんだと。

以前、山里で暮らす知り合いがこう話していた。「都会は刺激的だけど消耗する。田舎は安らぐけど長くいれば感覚が鈍る」十分に想像できる話だ。

このアンビバレントな問題の答えはどこにあるのか? そして「好きな事だけを選んで生きていけないのか?」というシンプルな疑問に答えはあるのか? そのアンサーを求めて実験を重ねる<HELLO GARDEN>が、「郊外の暮らし」という回答を提示する日は、近いかもしれない。

  • Photography 七咲友梨/Yuri NANASAKI
  • Edit&Text 山若マサヤ/Masaya YAMAWAKA
  • Web Design&Development 武田淳佑/Junsuke TAKEDA
HELLO GARDEN