連載「大人のブカツ」vol.02  SPINCOLLECTIF TOKYO
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「あそこ登れそうだな」

そう言って電柱に登りだすと、塀の上からスローを始める。

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もう日が暮れかかっていて、何本缶ビールをあけたのか分からないほどだというのに、
遊べる場所が多すぎてまだ当初の目的地六本木には着いていない。

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着いたころにはもう完全に夜になっていた。
その場所はとあるビルのピロティ。
リッチなカップルが週末のフレンチディナーを楽しんでいる空間の奥に、
水しぶきに包まれた奥に美しい半円の壁があった。

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interview

タカシ(以下T) 今日は人が優しかったね。

駅の階段でフリスビーで遊んでいて、道行く人たちが自然に集まってギャラリーができて。すごく刺激的で楽しかったですね。いつも街でセッションするときは、今日みたいなアットホームな雰囲気なんですか?

アラケン(以下A) いや、そんなことないですよ。渋谷の宮益坂のビルの屋上では警備の人に「確保!!!」とか言って追いかけられたこともあったし。

T あったねー。

A 屋上でビルとビルを挟んでやってた頃だよね。センター街で、どのビルが入れるかチェックして回ったり。

T 朝方ね。ネズミだらけでキツいんだよね。

A かなり初期だよね。2008年ごろかな。スピンコレクティフが6〜7年くらいだから本当に最初の頃。当時は本当にどこにでも行ける気がしてた。

そもそも、SCT(SPIN COLLECTIF TOKYO)はどういうきっかけで始まったんですか?

A 元々はそれぞれ別々でフリスビーをやってたんですけど、代々木公園で会って「こいつ面白いな」って、多分お互いに感じて。

じゃあ結成時には、それぞれすでにフリスビーには出会っていたんですね。

A そうですね。最初にハマったのは酔って遊んでたときだったかな。酒とか楽しいものと相性がいいんですよ。酔っぱらって投げていると、だんだんハイになってくるのがわかると思います。

T 俺はハワイで、まあ似たような感じの体験をして(笑)。

A ハイになってきたら、フリスビーを投げ合う気持ちよさはすごいですよ。そして、上手くなると、その感覚を日常的に味わえるようになる。ディスクが突然上昇気流に乗ったりするんですよ。目に見えないスポットが、目の前の空間にあることを認識させられるというか。あの感覚はたまらないです。経験すると忘れられないと思う。あとは、投げた瞬間、自分の手とフリスビーが糸がつながっているかのように自在にコントロールしているようにも感じますね。スパイダーマンみたいなイメージ。キャッチするときも、自分の引力で円盤が吸い寄せられてくるようで気持ちよくて。球技のキャッチボールでは得られない、フリスビーならではの浮遊感です。

例えばレイバーがトランスで踊って感じるような恍惚感と似ているんでしょうか?

A まさにそうだと思います。ただ僕らの場合はそれが音やダンスじゃなくてフリスビーだったていう。

SCTは単純なスポーツとしてではなく、ライフスタイルやカルチャーとしての側面でもフリスビー文化を発信していると思うんです。例えばアーティストとのコラボ制作だったり、映像作品だったり、音楽イベントやフェスへの参加だったり。そんなSCTのカルチャー的なバックグラウンドについて教えてもらえますか?

A 東京のメンバーはみんな世代も違うし、影響を受けたカルチャーもバラバラ。そんな多様な人たちがひとつになれるくらい、フリスビーはシンプルなツールなんだと思うんです。極端な話、全く違う言語を使う人同士でもフリスビーがあると遊べますから。SCTのフリスビーに作品を描いてもらっているアーティストたちも、表現しようとしている世界はみんなバラバラですしね。共通することは、今の時代を生きているってことくらい。

カルチャー的な側面でフリスビーを考えると、一般的にはまだ浸透しきっていないとも思うんですが。例えば恋人と日曜日の公園で遊ぶものだったり、愛犬と楽しむ物っていうパブリックイメージもある。

A バラバラでカオスなものもつながれるシンプルさだからこそ、色々な形で浸透しているんだと思います。入り口は広くて、奥は深いっていう蟻地獄的な楽しさですね。7年間やって飽きないですからね。

T だから、ある意味文化的なエアポケットだよね。カルチャー的に見ればまだ白紙というか、手あかがついていない。

A 僕たちの世代でフリスビーやっている人って、ブームでもないし盛り上がってもいなかったから、別にモテるわけでもなくて。それでも好きだからやってるっていう。だから集まってくる人たちの濃さがすごかったんです

T 様子がおかしい人が多くて楽しいです(笑)。

盛り上がってないってことは、いやらしい話、お金が回って行く土壌も全くない状態ってことですよね?そういった中でフリスビーをライフワークとして突き詰めていくって、生活の不安もあると思うし、チャレンジだったとも思うんですが。その原動力ってどういう部分なんでしょう?

T: 単純に楽しいからです。やっていくうちに共感してくれる人がいたら面白いなと思ってます。

アラケンさんは、SCTの活動で生計を立ててるんですよね?

A やっと、ほとんどそうなってきた感じですね。311の震災があって、それこそ「モウタクサンダ!」ってなって(笑)。社会的にも未来が見えない状態になったわけで、それなら好きなことをやらないとって思って突っ走ったんです。それまではデザインやCMとかの仕事をしていて。そういった中でメディアの強さっていうのはすごく感じていて。洗脳っていうと語弊があるけど、社会の中で必要なものを作って、それを上から打ち下ろすように発信していくっていう方法。ある意味まっとうですよね。お金を払う人がいる前提で作られているものだから。

先の予測があって、ある程度筋道が立っている中でのクリエイションということですね。

A  そういった作り方、発信の方法に対して歯痒さを感じていたのも事実で。だからそうじゃない(道筋のない)もの作りをして、顔と顔を付き合わせて手から手へ伝えていく発信をしたくなって。自分にとって本当に必要かわからないものを人に伝えることに不安も感じていましたしね。”何が売れるかという基準”で作るよりも、「これ面白いよ」と確信して言える方が安心できるようになった。それに、今は情報だけじゃなく、人と人がどんどん繋がりやすくなっている時代。だからこそ、フリスビーに可能性を感じていますね。

強くそう感じたのが3月11日の震災がきっかけだった、と。

A 311が起こって、まるで近未来にワープしたみたいに非現実的な世界になったと感じました。原発の問題があって、メディアや国に対する信用も大きく揺らいで、未経験の世界に突入したというか。同時に、世界がガラっと変わった中で今までの日常の世界で生きようとする自分もいて。例えばストリートフリスビーはコンクリートの建造物っていう既存の社会のインフラの中で遊んでいるし、そもそも生まれたときからずっとドアを開けるとコンクリートの世界が広がっている中で生きてきているわけで、その日常の景色が好きなんですよね。ノスタルジーな感覚はやっぱり惹かれるんですよ。

社会が非日常に変化していく中で、過去の日常の風景を求める自分も存在するっていうのは、ある意味で矛盾をはらんでいますよね。

A そこに矛盾を感じるのって、社会のルールやムードっていう大きな枠組みに自分を当てはめようとしているからですよね。でも、もっと大きな視点で見ると、僕らが感じる社会のルールって、多分200ほどの多様な国が存在する世界の中ではローカルルールのひとつであって、資本主義でやり取りしているG20くらいの国の間でのみまかり通っているストーリーだと思うんです。それなら、ひとりひとりが自分自身のローカルルールを作って、それに従って生きていけばいいんじゃないかって。世界や国のルールに左右されず、自分が純粋に惹かれる感覚を信じて行く方がいいと思っています。

アラケンさんにとって自分のローカルルールが、既存のインフラやコンクリートの建造物など、日常の風景に惹かれる感覚と、そこで遊ぶフリースタイルフリスビーだったということですね。

A 日常の景色を積み重ねて、自分のルールや感覚を信じて生きることで、社会のルールを飛び越えていけるんじゃないかって。身近な手の届く範囲のものを積み重ねて行くことで、”近所の果て”に行き着くみたいな。

自分のルールを信じるってすごく勇気がいることですよね。危険や不安は感じなかったですか?

A むしろ既存のルールやスタイルで、今までと同じものを作ろうとする方が危険なんじゃないかと思いますね。シフトチェンジは大小関わらず毎日起こっていて、日常の中で革命が起こり続けていると思うんです。変わるはずの時代で、同じ物を維持しようとすること自体が無理なんじゃないか。もう変わる時代なのに、前世代のストーリーを続けようとしているほうがおかしいんじゃないか。ただ、既得権益を持っている人の立場で考えたら気持ちは分かりますよ。例えば原発もそうだと思うんですけど、利益や権利を持っている現状があるなら変えない方が楽だから。「このままでいきましょうよ」って思っちゃうのはよくわかる。でも、何か新しいものを作るんだったら、前の世代と同じ物をなぞるだけじゃ意味が無いんです。知っているものを作るのって興奮しないですよ。だから、同じ物を続けることを止めさえすれば、誰かが成功するんじゃないかって思うんです。それは必ずしも僕らじゃなてくもいいとも思いますしね。

三宅洋平さんや坂口恭平さんのスタンスとリンクする部分がある気もします。もう世の中はどんどん変わっているんだよ、革命は起きているんだよっていう。その中でもう以前と同じことは続けられない。

A 毎日革命が起きている中では、昔と同じ方法論は信じられない。信じられるのは、自分が好きなことだけですよ。フリスビーの浮遊感を感じるたびに「好きだなぁ」って思います。好きなことって、頭より先に体が動いちゃうんですよね。

最後に、SCTの最新の活動について教えて下さい

T  TOKYO FRISBEE® PARKっていうプロジェクトを進めています。

A google earthで東京じゅうの円形の建物を調べ上げて、実際に行って遊んでいて。タカシにはプレイヤーとして参加してもらっている感じです。同時に札幌や東北でも、現地のクルーと一緒にプロジェクトを進めていて、ゆくゆくはJAPAN FRISBEE PARKとして日本中の円形の壁を制覇したい。その次はWORLD FRISBEE PARK。そこが「近所の果て」になればいいな、と。最近、円形に夢中になりすぎてストーンサークルとかUFOまで気になってきてますからね(笑)。

ちなみに理想のスポットってあるんですか?

T フランスにはひとつあるんですよ、タックっていう最高のスポットが。あとロシアにも。

A 日本で理想の建物を挙げるなら……前方後円墳(笑)。あの形の建物でスローできたら最高に気持ちいいでしょうね。


最後に、彼らが選んでくれた、”フリスビーカルチャーの入り口”的、必見の動画を紹介。
ぜひチェックしてほしい。

【LE TAC Paris】
※インタビュー中に出てきた最高のスポット「タック」

【magic freesbee : spin collectif net video magazine 4】

【THE INVISIBLE STRING - official movie trailer】
※SPIN COLLECTIFFも出演

【urban disc invasion】

【nobody but you: freestyle frisbee bike #3】

【spincollectif tokyo】

【Magic freesbee : Advertising with Spin Collectif inside !!】

【Freestyle Frisbee @ Paris】

おまけ。

小坂忠/フライングソーサー