連載「15歳の品格」
連載「15歳の品格」

連載「15歳の品格」

編集部で唯一30歳を超えているシトズカと申します。
今年も残すところあとわずか。
MOUTAKUSANDA!!! MAGAZINE編集部で先日、
お餅つきを開催したのですが、僕は原稿に追われている
ため部屋の窓からその様子を見るので精一杯でした。
そんな姿を気の毒に思ったのか、
編集長が僕のところに近づいてきまして
「キサマオナカスイテル?」
と聞かれたので、
「答えはイエスだ」
と言い返してやりますと、
偽2000円札を渡され
「コレデピザデモトリナサイ」
と優しい言葉とともに去っていかれました。
あぁ、僕も編集長のようになりたい!
そんな思いで今回も「30歳」というお題のもと
自分勝手なオハナシを書きましたので、
ながら作業の合間にご覧いただければこれ幸いでございます。

ーこれまでのハイライトー

ある日少年はシャワーを浴びているときに
胸に1本の長い宝毛を発見する。
なんとなく抜けずにいると次第に気になる存在に。
不本意に抜けてなくなってしまうことを恐れた少年は
宝毛をさまざまな危険から守ることを決意する。
ガチャガチャのカプセルで宝毛を覆って眠りにつくなど
宝毛を守護するために試行錯誤の策を練るのだが、
明日、学校では柔道の授業が待ち受けていた。

■バックナンバー第一話 運命のダダダダーンッッ


第二話 灯りをつけるな

目覚ましが鳴る前に起きあがった。
半球を固定していたガムテームにリアクションを
とりながら恐る恐るはがしていく。
くっきりとついた丸型の中心には、
ひらがなの「る」の形をした宝毛ちゃんがいた。
よしミッションコンプリート。
問題は今日の体育だな。よりによって柔道とは。
サボってしまうか……、いや今日は避けられても、
明後日も同じ問題にぶち当たる。
今やるべきことは逃げるのではなく、
打開策を見つけることだ。
安心しろよ、お前は俺が守ってやる!
自然と湧いてくる使命感。
この感覚はなんなんだ? これが愛というやつなのか?
自分のなかで新しい何かが目覚めてSPARKしそうな気分だ。

鼻息荒くしていると突然部屋のドアが開いた。
「何べんも呼んどんのになんで返事もせんのじゃ!
うん? あんたなんしとんの?」
母親が現れたのだ。
その瞬間、なぜか女の子のようにバスト部分を
布団で隠してしまった。さらに
「な、なんもないわい。むこういけや!」
と、激しい動揺時にありがちな
語気を荒げてごまかすという
パワープレーに出てしまった。
これじゃあなんかありますと言っている
みたいなもんじゃないか。
「……。ごはんできてるわ。はよ食べや」
少し変な間があったあと、何かを察したかのように
母親は部屋を出て行った。
親に空気読まさせてしまい申し訳ない。そう思いながら
胸元に目をやると、こやつもすまなさそうに身を縮めている。
「る」の文字に一層磨きがかかり、とぐろを巻いていた。
へびでいうところの究極の防御スタイル。
あんた生きる術知ってるね。という視線を宝毛に送ると、
目が合ったような気がして少しはにかんでしまった。

早々に朝食を済まして歯を磨く。
うーん、打開策が見当たらない。
かつてこれほどまでに朝から脳を
フル回転させたことはあっただろうか。
あーでもない、こーでもないと考えながら部屋へ戻り、
ビニール袋をいい感じのサイズに切りとり胸元に当て、
さらにその上にガーゼを被せホワイトテープで
しっかりとめたあと、制服に着替えて家を出た。
もちろん予備のビニール袋、ガーゼ、テープは
ポケットにインしてある。怪しげな顔をしている母を
横目に頭のなかは柔道のことでいっぱいだ。
最寄駅まで自転車で15分、そこから電車で30分、
さらにバスで10分ほど行った西の果てに
通称「こけし(こけし高)」と呼ばれる僕が通う
学校がある。由来は単純だ。その昔、男子生徒がみんな
丸坊主であったことでこけしに似ていると
誰かが言い出したらしい。

通学は約1時間。そこで僕は宝毛を守るためにある
チャレンジをすることにした。
「横断歩道は白い部分だけを踏む」
「駅と駅の間は息を止め続ける」
「道中ずっと左利きのフリをする」など
自分にさまざまな試練を与えたのだ。
この『風雲!たけし城』ばりの道のりを
コンプリートして無事学校にたどり着けば、
今日一日何があっても宝毛を守り抜くことができる。
もしできなければ宝毛に危機が迫る。
そんな曖昧で自分寄りの勝手なルールをつくり、
懸命にミッションに励んだ。
途中、息継ぎ二回ありにルール変更し、
「今のはノーカウント」を何度か使い
ようやく校舎が見えるところまでやってこれた。
よくやった、よくやったぞ僕!
この苦労きっと神様は見ている。
変な達成感と自信に満ちたところで、
深呼吸をひとつし校門をくぐった。

1時限目、僕は秘策を考えるのを一旦やめ、
新しいノートと鉛筆を取り出した。
今日からこいつと過ごす日々を日記に
書き留めていくいことにしたのだ。
そして、愛着を深めるため、名前をつけ
「桑名」と命名した。
この「桑名」は敬愛するミュージシャン桑名正博
から拝借したものだ。
桑名を好きな理由は「月のあかり」という曲、
そして「THE夜もヒッパレ」という
音楽番組での彼のパフォーマンスが
とても素晴らしかったからだ。
桑名が歌い上げる曲はアレンジの域を超えており、
もはやオリジナルといっても過言ではなかった。
枠にとらわれない攻め続ける姿勢。
思春期だった僕にビンビン突き刺さる。
もうひとり尾崎紀世彦もかなり曲者であったが
ちょっとアクが強すぎた。

ともあれ、今日から宝毛改め「桑名」。
僕に“心友”ができた。フフフッと自然にこぼれてくる笑み。
「桑名」という文字を何度も書いては、
ほくそ笑んでいたその時だった。
先生が僕のノートを取り上げ
「この桑名ってなんかいな?」
と無垢な顔して聞いてきた。右手には“お仕置き棒”と呼ばれる
長さ30センチくらいの木の棒を持っている。
あぁ、たけし城はコンプリートしたはずなのに……。

連載「15歳の品格」

ぶん・いらすと/シトズカ

第三話に続く・・・