DJ嶋田のぶんぶんのポップス50音順 第4回「え」
DJ嶋田のぶんぶんのポップス50音順 第4回「え」

DJ嶋田のぶんぶんのポップス50音順 第4回「え」

地方都市和歌山を拠点に活動する私的シティポップDJ・嶋田のぶんぶん。
彼が愛してやまない国産ポップスを50音順に紹介する連載エッセイ。
NYやイビザにいるDJの名前を自慢げに並べ立てる奴と
自国の音楽を哀愁と羞恥とリスペクトをもって語れる奴、
どっちが愛せるかっていったら、わかるよね?
つまりそういうお話。
  • 文/ DJ嶋田のぶんぶん
  • 編集・題字 / 山若将也

退屈なこの街を抜けだして駆け出そう、 郊外のイオンモールまで、
和歌山シティから今晩はあなただけに。

「あ」からはじまり「ん」で終わるまで50音順に、
その文字からはじまるいなせなポップソングの
いなせなグルーヴをお届けするこの連載。

お相手はもちろん、 過去にいなせなバーで知り合い、
いなせな一夜を過ごした女性に数日後電話をかけるも音信不通の後、
おもむろにTwitterを開いて見ればTL上に、かの女性のツイート
「忘れたい思い出が追いかけてくる(●^o^●)」(原文ママ)を
発見した私、 忘れたい過去a.k.a.DJ嶋田のぶんぶんです。

「Do you do you remember me?」(By岡崎友紀)

「忘れたくない思い出が消えかけている それは悲劇だと思うよ」
これは、ゆらゆら帝国による カーペンターズ
「イエスタデイ・ワンス・モア」の 日本語カヴァー冒頭の名訳。
とは言うものの、 忘れたくない思い出も、その逆に
思い出したくもない過去も、
月日がたてば自然と忘れてしまうもの。

なぜなら「人間は忘れるようにできているのです」そして、
「この『忘れる能力』というのは『救い』です
という瀬戸内寂聴師のお言葉をスピン!

そう、忘れるということは「救い」なのです。
むしろ、私たちは救われるためにいそいそと
様々な出来事を忘れていかなければならない。

私は、「オイ、ボケ、コラ」
(意訳:とうに締め切りは過ぎていますが、原稿はまだですか?)

というMOUTAKUSANDA!!!編集部からのお便りが 一月ほど前から
断続的に届いていたことを忘れて、救われます。
そうぞ、編集部の皆さんにおきましては、

「ケ・セラ・セラ」
(意訳:お便りありがとう。あと数行で終わるから、明日送るね)

という回答が毎度間髪いれずに
返って来た事実を忘れて救われてください。

その他の人は、昔綴った古いmixi日記の存在や、
「*空を見る人*」「間取り図大好き!」みたいな
コミュニティに 参加していたことを忘れて救われてください。

しかし、「マイミクであらねば人であらず」と
謳われた日々も、 気付けばはるか忘却の彼方の
2014年最初の「DJ嶋田のぶんぶんのポップス50音順」
第3回「う」から約ひと月後の、第4回は「え」!
歌うは昭和の喜劇王、榎本健一。お聴きください
「エノケンの月光値千金(げっこうあたいせんきん)」。

ラグタイムと呼ぶべきポリドール・リズム・ボーイズの
ちょっといなたい小粋な演奏にのせて、
カラッと陽気ありながらどこか諦観のようにも
響く独特の笑い声とともに
いなせな男のいなせな恋の、
そのいなせな顛末(オチ)が 語られるこの曲。

「月光値千金」というタイトルながらも
歌詞の中に月光、すなわち月の光が
(それを連想させる言葉も含めて)一切登場しないところが
「エノケン”の月光値千金」である所以。

オリジナルは1928年にアメリカで楽譜が出版された
「Get Out And Get Under The Moon」というジャズ・ソング。
それに「月光値千金」という邦題を冠して、
同年の12月には早くも戦前を代表する
ジャズ・シンガー 天野喜代子がレコード録音を行っております。

以来、玉石混合、多種多様なジャズ・シンガーが
同じく多種多様な訳詞で歌った結果「月光値千金」は
戦前を代表する 「和ジャズ・ソング」に相成ったわけでございますが
本国アメリカにおいてこの曲が ジャズの
スタンダードとして認知されるようになったのは、
出版から30年後、ドリス・デイやナット・キング・コールが
自身のアルバムで取り上げて以降のことだそう。

過去の記憶として、忘れさられん運命にあった楽曲が、
再び日の目を見たという塩梅でございましょうか。


…というところまでMOUTAKUSANADA!!!編集部に奉納したところ、
「オモ・ン・ナイ」
(意訳:ちょっと文章が固いですね)
と怒られましたが、気にしない。

そう、固いの! わしは本当は固いの!
「DJ嶋田のぶんぶんは固い」ということを、是非とも読者の皆様には覚えておいていただきたい。
件(くだん)の女性と、いなせな夜も明けた早朝 最後に交わした会話は

「ごめんね…」
「全然いーでー(ED)」でした。 ⇒「忘れたい思い出」へ(実話)。

グッナイ!
いい夢見ろよな!


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